Day 3

三日目はスロバキア人のルシアと行動。
彼女はマルチリンガルで、スロバキア周辺の国々の言葉はもちろんドイツ語やフランス語もいけるという秀才。

午前中はエディンバラ城を探索。
エディンバラ城は街を一望できる丘のてっぺんにある。丘の斜面は急なので城が宙に浮いているような印象を受ける。


エディンバラ城頂上から城壁から身を乗り出すと、
そこには現実とは思えないほど完璧に美しい世界が広がっていた。
遠くには群青の海、クリーム色の建物の間に何個か教会が見える。
そして、街の終わりには牧場。丘はなだらかなカーブを描き延々と続く。

なにも邪魔するものがない、私の求めていた世界だった。
ディズニーランドのように作為的ではないし、
センスの悪い土産屋もないし、地平線を遮る高層ビルもない。

ばかげているかもしれないけれど、私は、少しだけ泣いた。
でもこの世界には、それほど美しく完璧な
風景、建物、自然、絵、音、言葉が存在するのだ。

エディンバラ城内部の様子

エディンバラ城の探索を終えると、 ルシアがよければ墓場に行きたいと言い出した。
ちょうどその日は、ヨーロッパのお盆だったらしい。
花を一房買い、墓場へ向かった。

「私の死んだおばあちゃんはジョシュアっていう名前だったの。ひいおいちゃんはヘンリー。
本物のお墓に行けないから、同じ名前の人の墓に花を添えようと思って。」


というわけで、私たちはジョシュアとヘンリーの墓を捜し求め、広大な墓地を歩き回った。
死んだ人に悪いけれど、墓石を見るのは楽しい。
墓石はさまざまな形をしていて、どれも素敵なのだ。
ケルトの十字架をかたどったものや、周りを装飾的に縁取られたプレート、小屋のように大きなもの・・・

墓場

途中で、どんな名前だったか思い出せないけれど、とても美しい名前の女の子の墓に出くわした。

「見て。この子、17歳で死んじゃったんだね。
きっとすごくきれいで、でもかよわくて・・・多分心臓病か何か背負ってたんじゃないかなぁ。
絶対自殺とか殺されたとかじゃないよ。両親やみんなに愛されていたからこんな素敵なお墓を作ってもらえたんだよ。
・・・・・こういう風にお墓を見て死んだ人の過去を想像してみるのって、おもしろくない?」

同意した。

英語学の授業で、言語と思考、どちらが頭の中で先に来るかという議論をしたことがあったけれど、
この時の私は、言語が先だと思った。
だって日本語でこんなことを言われたら、思わずぶっと吹き出していただろう。

花を添え終えると、Writer's museumへ向かった。
スコットランドの三大作家について展示されている。建物は恐ろしく古く、歩くのが怖かった。
展示はどれも興味深かったけれど、さすがに疲れていて細かい字はぶっとばした。
ルシアはウォルタースコットの分厚い本、私はジキル博士とハイド氏の薄いペーパーバックを買って、 ミュージアムを後にした。

その夜、日本人はホステルの一室に集合した。
誰かが持ってきた「干しいも」をかじりながら、
どれくらい体重が増えたか、学校やホストファミリーのこと、最近行った場所・・・いろいろ話した。

それにしても、良い意味でも悪い意味でも個性の強い人というか常識はずれな人が多かった気がする。
いや、そういう人だけしかこの旅行に参加していなかったのだろうか?
現に、私の知っているノンキャンパーの女の子二人は来ていなかった。
たった一日、成田で一緒に研修を受けただけだったけれど、私は彼女たちはおとなしいと感じた。

そのうちみんな寝てしまって、 私と一人の女の子だけ残った。
その女の子も、またかなり変わった子だった。
部屋に戻ろうとすると、もう少し話してから寝たいからいてと言われた。

彼女は、とつとつとなにかいろいろ語り始めた。
おもしろかったのは、なぜイギリスを留学先に選んだのかという話。
まず、とにかく安全な国に留学したかったらしい。
そこで選んだのはカナダ。しかしながら、試験に落ちてしまった。
でも、どうしても留学したくて、次に選んだのがイギリスだったというわけだ。
理由なんてみんなそれぞれらしい。

私の理由も聞かれた。
「イギリスの・・・イギリスの文化が好きだから。」
そう答えながら、なんだか嘘をついているような嫌な気分になった。

じゃぁ、なんで毎日宿題ばっかりやっているの?
なぜ、人のトラブルを見て悶々と家の中で暮らしているの?


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