Act7.
いざ、本番!
とうとうやってきてしまったのだ、この日が。
早朝に学校に集合。二台のバスで会場に向かう。
バスの中で、何度も譜面を見直す。
日頃から穴が開くほど譜面を見ていたので暗譜しているはずなのだが・・・
それでも自信がない。
去年、うちの学校はB編成で出たのだそうだが、今年はA編成で出る。
A編成は、やはりBよりもレベルが高いそうだ。
「うおー、あれが会場かぁ。」
現れたのは、煉瓦造りの巨大な建物。ここが、会場である。
私達と何ら変わらない中学生達が、会場の中にも外にも一杯いる。
「先輩、うちの学校金賞取れますよね、きっと。アハハハハハ。」
T先輩の顔を見る。
「多分無理。」
ガァーン。当時、初出場の私にとってショックの一言だった。
さて、うちの学校の出番は、何と一番である。
最悪の事態である。一番というのは、かなり不利なのである。
ええ、かなり・・・。賞が一つ下がるくらい・・・。
今更、あーだこーだ言ってもしょうがない!くじ運が悪かっただけなのだ!
そんなことを考えながら、私は舞台袖に向かった。
「一番、Y中学校、指揮、○○、課題曲・・・・・・・・・・」
アナウンスが聞こえてきた。
ステージに上がる。
頭の中は、真っ白。ステージのライトがヤケに眩しい。
課題曲では演奏しないので、舞台のはしっこで待つ。
課題曲マーチ・グリーンフォレストの軽快な出だしが聞こえてきた。
いつもより早いような気がした。
ぽーっとしていると、いつの間にか終わっていた。
出番だ!
グロッケンの前に立つ。
灰色のマレットを握りしめ、先生を見る。
ライトが眩しくて、譜面が見えない。少し焦った。
演奏中のことはよく覚えていない。
ただ、やはりいつもよりテンポが速かった、
ということだけは覚えている。
気付けば、もうクライマックスだった。
ボーっとしていたせいか少し早く最後のグリッサンドに入ってしまった。
「ああ、しまった。」額から、冷や汗がにじみ出た。
少し地味になって、私は最初のコンクールのステージから立ち去った。
「あのさ、最後のトコ、やっぱり分かった?」友達に早速聞いてみた。
「え、なんのこと?」
ふぅ。何とかごまかせたようだ。
しかし、相手(審査員)は、プロである。
「ああ、私のせいで少し下がっちゃうんだろうなぁ。」
と、結局また地味になって、集合写真の撮影所に向かった。
みんなやっと本番が終わったからなのか、とてもリラックスした表情だった。
集合写真は、普通のモノと、自由のモノを撮った。
色々あった写真撮影だが、写真の話はまた後で。
他の学校の演奏が次々に成される。やはりみんな上手い。
私の住んでいる地区は激戦区なのだそうだ。
みんなの顔がこわばっていくのが手に取るように分かる。
そして、表彰式。
結果は、銅賞である。要するに、最下位である。
金賞の学校は、叫んだり飛び跳ねたりそれはもう大騒ぎだった。
一度は、あんな思いをしてみたいなぁ、と私はぼんやりその風景を眺めていた。
三年生の先輩達は、泣いていたり、呆然としていたりした。
けれども、私は悲しくなかった。
まだ一年生だからかもしれない。しかし、それだけではなかった。
ずっと今日まで、みんなが一生懸命やってきた。
そして、今日の演奏は、技術がどうのこうのの前に、今までで一番気持ちのこもった演奏だった。
そう感じたからかもしれない。
ありきたりの感想だが、事実そうだった。
そして、何よりもコンクールという貴重な体験を、肌で感じられたのが嬉しかった。
会場を出るときに、みんなで会場に向かって「ありがとうございました!」と礼をした。
なんだか宗教みたいだなあ、とも思ったけれど、大きな声を出すと気持ちよかった。
夜。
私の部屋のカセットデッキから聞こえてきたのは、大好きなStingでも、Bonnie Pinkでもなく
エル・カミーノ・レアルだった。