Act5.

初合奏


ざっと楽譜を見てから初めて楽器に触ることになった。
先輩がグロッケンのケースのふたをあける。
カチッという音をたてて、銀色に光り輝くグロッケンが姿を現した。
おやじの頭より、まぶしくて素敵な楽器だった。
マレットの握り方を教えてもらう。
そして、いよいよ叩くことになった。
グロッケンの楽譜は、何日も前から見せてもらっていたので、おおよその内容はわかる。
といっても実際やるのは難しい。
始めの音はDだ。
両手でDの音を叩く。
先輩とあまりにも差があり過ぎる汚い音が出て、思わず苦笑してしまった。
そのまま続けてみるということで、ほとんど全部通してみた。
すると、T先輩が「何か、手が・・・手がねぇ。」とつぶやいた。
どうやら私の打った後の手の動きが変らしい。
後で聞いた話だが、T先輩は、この時あまりの変さにびっくりしたらしい。
今だに手の動きは変らしい。自分ではどこが変なのかわからないのだが・・・。
それから何週間かがたった。
その頃には、もうだいたいはできるようになっていたので、
ついに、ついに、初めて合奏に出ることになった。

グロッケン演奏時の私

重いグロッケン(今となっちゃあ重くもなんともない)を抱えて音楽室に向かう。
「きりーつ、気を付けぇ、礼!」で合奏が始まった。
大勢の先輩たちが私達のことを物珍しそうに見ている。
なにしろ私達だけが、一年生で合奏に出ているのだから。
何だか、すごく空気が重かった。
先生の指揮棒を持った手があがった。
一斉に楽器を構える。
私もマレットを構えた。
あ、振った。
ジャンジャカジャーーーン、ジャーン。
同時にものすごい大音量がでた。
思わず体がびくついてしまった。
あっという間、ほんの15秒ぐらいで、もう自分の出番が来た。
例の、両手でDを叩くところだ。
叩いた。
音が、音楽の中に混ざり溶け込んだ。
様な気がした。
幸せだった。
うれしかった。
はじめて、アンサンブルってこういうことなんだと体で実感した。
それから、ついていけなくなったり、間違えたりもした。
けれども、全然恥ずかしくもなんともかった。
ただ、大勢で一緒に音楽を作っているこの場所に自分がいるということが、嬉しくてたまらなかった。
音楽って本当に楽しいもんだな。と心の底から思った。
初合奏は、完全に私をブラバンの世界へとのめり込ませた。
帰宅途中、興奮がまださめなくて、からだが震えっぱなしだった。
踊るみたいにして帰っていった。
踊りながら玄関に突入した。
ドアを開けてまっ先に言った言葉は
「ねぇ、お母さん。私、吹奏楽部に入って本当に良かった。」