海外便や実家と倉庫への国内便の荷物の仕分け、これら三箇所への
自宅マンションからの三度の引越し、留守宅を法人向けに賃貸する為の
リホームや書類手続き、赴任先への必需品の買物、会社関係の御挨拶
回りに友人達とのお別れ会、、、等々と、用事や雑用に忙殺され、
身も心も疲れ果て、神戸の実家に戻って休養している私の元に、
一足先にカナダのバンクーバーへ単身赴任をしている夫から、
国際電話がかかって来たのです。

「実は、君の空港への出迎えは、現地会社の日本人スタッフ全員、
夫人同伴でやる事になったから宜しく!」
「え"〜!何でぇ〜!嘘でしょう?」

夫の説明によると、たまたま到着の日が土曜日で会社がお休みである事、
この機会に全員の日本人スタッフと面通しをしておけば、其れも、特に御夫
人方との御目文字を済ませておけば、後々のお付き合いがスムーズに行く
だろうと、殿方達が企んだのです。
恐らく、家族間の面倒臭いお付き合いは、奥方達に一任する積もりなのでしょう。

『それってナンカ、凄く面倒臭くない?
長旅の末の疲れた顔で、初対面である会社関係の人達とお会いして、
彼等の前でしおらしい妻を装わなければならないなんて、、、、。
あぁ〜!
三ヶ月ぶりで夫と再会する感動的なファーストシーンなのに、
そんな事で気を遣いたくないなぁ〜!』
、、、、この様にぐだぐだと不満の気持を夫にぶつけながら、
その旨をしぶしぶ承知したのでした。
かくして、私のバンクーバー初主演の舞台は設定されたのです。

 カナダで三番目に大きい街・バンクーバーは太平洋沿岸に位置し、日本から
飛行時間約8時間の直行便が毎日飛ぶアクセスの良さ、山海の美しい自然と、
カナダとしては冬でもそれ程寒くならない穏やかな気候に恵まれ、治安の良さや
多民族故かフレンドリーな人々が多く、グルメにとっても嬉しい、新鮮で美味しい
多様な食材に溢れ、何よりも私達に都合が良いのは、東部のフランス語圏と違って、
この街では英語が話されているのです。
元来、先住民である沿岸インディアン・イヌイットが此処に定住していたのですが、
1792年、英国海軍のジョージ・バンクーバー艦長がこの地に探検の為到着した
ことによってヨーロッパ人達の移住が始まり、それ故、彼の名が市の名前の
由来となったのです。

 夢と希望で胸を膨らませ、このような魅力的な街であるバンクーバーで
記念すべき第一歩を踏み出した、1993年1月22日の朝のお天気は、
小雪がちらほら舞う曇天の寒い冬の日でした。

 会社の方々との対面を控えて少し緊張気味な面持ちで入国ゲートに向かっている
私には、其処で夫が一世一代の大見栄を切ろうと待ち構えている事を、
想像する余裕すらありませんでした。
なんと、彼は運転手付きの最高級車ストレッチリムジンをチャーターし、
手には真っ赤なベルベットローズの花束を抱えて、私を待っていたのでした。
大勢で迎えられ花束を手渡されている私の姿は、周りの人達の目を引くのは言うまでも
無く、まるで私がアジアからやって来た女優か、歌手の様な有名人(ちょっと言い過ぎ?)
であるかの様に勘違いされているのではないかと、顔から火が出る程恥ずかしい思いを
したのでした。
その様な事をしでかす夫の魂胆は明白で、恐らく彼一人のみの出迎えだったら、
こんな大袈裟な演出は絶対にやらなかったはずです!
受け狙いの関西人がやりそうな事です。
Episode 1
1st. Imperssion of Vancouver
そんなたわい無い夫のジョークを温かく見守って、私を快く歓迎して下さった会社の
人達に接して、きっとバンクーバーでの新生活は楽しく、快適なものになるでしょう、、、
という確信を持ったのです。
 私のバンクーバーの第一印象は、夫のチャーミングな演出も伴い、
外の薄暗く寒々とした冬空とは打って変わって、
ぬくぬくとした期待感に包まれ、とても明るく心温まるものだったのです。
Enjoy your Life
Episode 2
Essay Index