某基幹病院の素敵な対応
2006年12月に流行したノロウイルス。まだ当院に来て間もない患者さんがやはりお子さんが夜に急に吐いたということで心配になり、某基幹病院の救急外来を受診しました。3時間は待たされたようです。診察の順番が回ってきたころには嘔吐も止まっていたこともあり、「今回は処方は無し、しばらくして嘔吐が本当に落ち着いてから少しずつ水分を飲ませるように」という、僕らからいえば、ごく自然な対応をしてくれました。そして「明朝かかりつけ医を受診してください」ということに。その1週間前に、「嘔吐したときは」「ノロウイルスかな?と思ったときは」というメールを患者さんに送っていたのですが、メールアドレスの登録をしていなかったのだそうです。単にこのサイトを見てくださいねというメールだったのですが、残念ながらそのメールは受け取っていなかったのだそうです。
しかし、この親御さんの偉かったのは、「3時間待って薬も無し?」と言って怒らなかったことです。担当医のお話しが上手だったのかもしれませんが・・・。
そして、翌日星川小児クリニックに来てくれました。もちろんお子さんの嘔吐は止まっており、お母さんも落ち着いて話しを聞いてくれます。星川小児クリニックでは主にナースが振り返って「きのう家庭ではどんな対応をしていけばよかったのか、救急医療に本当に行く必要があったか」などをお話しします。ナースはより身近な存在なので、お母さんも聞きやすく話しやすいようで、「こうすれば救急医療にいかなくても済みましたね」という話もお母さんへの批判ではなくアドバイスとして記憶に残してくださるようです。
こうすればもう同じような症状で救急医療に行くことはなくなります。
お母さんも満足そうでした。メールアドレスも登録してくださることと思います。
一方で、救急外来などにいると「こんな時間に来てやった(←来てくださいとお願いしたわけじゃないが)のに、薬も無しかよ!」と怒鳴る親御さんもいます。そんな方は基本的に星川小児クリニックのような、予約制で診察券が有料などというクリニックには近づかないので、ある意味で別世界の話かもしれませんが、怒鳴らないまでも不快に思う人はたくさんいるはずです。そういう人は半ば強引に薬を貰い(医師もそういう人だなと感じると言われる前に適当に薬を出しておきます)、早く受診して早く薬を飲ませたから治ったと信じ込むわけです。当然、同じ事を繰り返します。ひとりで何回も繰り返せば、延べでいえば大変な数になります。(実は小児救急が疲弊している一番の原因はこんな人たちかもしれません)
医師は、本当に患者さんにとって必要な仕事だと思うと、またそれを感謝されると、寝食を忘れて尽くすタイプが多く、それが勤務医が激務であっても何とか続けているモチベーションになります。しかし、後者のようなタイプの患者さんが増えるとそのモチベーションが下がり、仕事が苦痛になってきます。
実は、医療崩壊の本当の原因はこんなところにも潜んでいます。
後者のグループに入る人たちを、とんでもない人だと排除するのは、星川小児クリニックのような「クリニック」であれば、そのポリシーをしっかり持つことで比較的自由にコントロールできますが、救急外来では難しいのが実態かと思います。
このように二極分化した親御さんのグループがあります。
後者のグループをどうするかが大きな問題です。また、本来前者に入るようなタイプの知識と性格を持つ親御さんであっても、医療機関の対応如何ではその親御さんを結果的に後者に追いやることもあります。例えば、冒頭の患者さんに、深夜にたくさんの薬を出したり点滴などの処置をして、「これで良くなりますよ」みたいな対応をしたらどうなるか・・・。賢い市民の方であれば当然おわかりですよね?
「二極分化」という言葉で表現したのですが、今流行の「格差社会」という言葉と何となく無縁ではないような気もします。
誤解を恐れずに今の悩みを言うと、星川小児クリニックの診療は、極端に言えば、救急外来で、「こんな時間に来てやったのに薬も無しかよ!」と言って怒るようなタイプの人たち、そこまで言わなくてもそんな気持ちになるような人たちを切り捨てるような診療をしているのかもしれない、これでいいのだろうかという心配です。