話せばわかってくれる患者さん

北部夜間急病センターでよくあった経験

2歳児を連れた親御さん(両親とも何となくインテリっぽい)

「きょうはどうされましたか?」
「夕方から熱が出てきたんです」
「そうですか。食欲はどうですか?」
「半分くらいです」
「ご機嫌は?今はそんなに悪くないみたいですねえ」
「ええ、まあ機嫌はいいんですけど」
「で、熱の他には症状っていうとどうですか?」
「それは特にありません」
・・・一呼吸(できるだけ笑顔で)・・・
「じゃあ特にお胸とかおのどとか診る前にちょっとお話ししましょうね」
「?」
「いえ、こういうときに、おうちでどうみていくのがいいかってことをお話ししたいんだけど、診察してからだと、診察したからわかるんじゃないかって思うでしょ?だから、最初に話しますね(笑)」
「正直言うと、まだ僕らが診るには、ちょっと早いかなって思うんですよ」
「でも急に熱が出てきて心配で」
「ハハハそうでしょう。でも、熱にしても嘔吐にしてもまあ急にしか出ませんよね?」
「そうでうね」
「大事なことは、まず急ぐか急がないかの判断ですけど、『機嫌』か『食欲』のどっちかが良かったらまずそんなに急ぐ必要はありません。きょうは夕食はあまり食べなかったので食欲はやや落ちているようですが、機嫌がいいというか、クタラ~(^^);っとして、でも本人は苦しそうじゃないですよね」
「そうですね。くったりはしているけど」
「何か疲れちゃった・・・って感じでしょ?」
「ええ」
「運動のあと、疲れた~とか、遊びすぎて疲れた~というときとよく似てるでしょ?」
「そんな感じです」
「そういうときはちょっと例えば1日ぐらい様子みていいんですよ」
「でもこんな感じで熱が昼間に出たときはすぐにかかりつけ医に連れていってたんですが、たいてい喉が赤いとかでかぜだからということで、抗生剤とシロップと熱冷ましみたいに薬を出してもらっていたんですが・・・」
「う~ん、そうですか。でも、どのお医者さんも熱が出てすぐだとどんな病気かってよくわからないものなんですよ」
「でもそれを飲むと、治るんです」
「でも飲まなくても治ったかもしれないですよね」
「かぜって薬飲まなくても治るんですか?」
「もちろんそうですよ。昔の人たちは病院も無かったけど別に死んだりしてなかったでしょ?」
「でも肺炎になったりしていたんじゃないですか?」
「そういうこともあるけれど、肺炎になりそうかどうかは、熱が出たらすぐにわかるわけじゃなくって、少し様子をみてからわかることなんですよ」
「じゃああまりすぐに病院にいかずに少し家にいたほうがいいんですか?」
「もちろん、機嫌か食欲がいいとか、まあ緊急性が無いときですが、多くのこどもの病気は本当は急ぐ必要のないものが多いんです。その中で重い病気を見落とさないようにするのが大事なんですが、そういう重い病気は早く薬を飲んだからといって避けられることはあまりなくって、むしろ早く薬もらって飲ませているから大丈夫だろうって信じ込んでしまうとそのほうが危険なんですね。だから小児科の本当に大事な仕事は、薬を出すことよりも、病気の初期に家庭でどんな対応をしていったらいいか常日頃から説明することと、ある病気を診たらその予想される経過とか注意点をアドバイスして親御さんが判断できるようにしてあげることなんですよ」


-----------診察後-----------


「もう少しおうちにいようかぁ~(子どもに向かって)」
「あ、でも、せっかく来たんだから、何か薬持って行きます?」
「いえ、いいです。症状も無いし、熱冷ましなら家にあるし・・・明日まで待って、調子悪そうだったらかかりつけ医に行けばいいんですね?」
「そうですけれど、お薬無しで心配じゃないですか?(と言いながらも何を出したらいいのか頭には浮かばない)」
「いいえ~、こういうお話しを聞けただけでもきょうは来た甲斐がありました。たぶんここにはもう来ないと思います」
「そこまで言ってくださると僕も嬉しいですけど・・・かかりつけの先生から『薬じゃなくて説明』を引き出すように、お母さんも話し上手というか聞き上手にもなってみてくださいね」

実は、このように、話せば理解してくれる患者さんは、とって~も多いと思います。特に北部夜間急病センターではそうでした。もちろんうまくいかないこともありました。ムッとして怒り出す人もいました。
ただ、こういう会話を挿入するのは、『時間』がかかりますから、こういう診察をしていると、数を稼げません。その上、処方をしなければ、処方箋料もいただけませんから、営業上はマイナスになることも。
当然、今の医療を「経済的に誘導」している医療制度(保険制度)がある以上、それに流される(国の意志に従う?)ような診療をすることを否定はしませんが、『話せばわかってくださる』人がたくさんいらっしゃるのに残念だなあ・・・と思うことが多かったという思い出が北部夜間急病センターにはあります。