小児救急「コンビニ化」

「念のため」軽症でも外来へ
(2001/11/08朝日新聞)
黒字は記事、赤字は院長の注釈です。当院も取材を受けました。

夜間や休日に小児科の救急外来に来る子どもの多くは、軽症で検査や入院の必要がない患者です。「念のため」「安心を求めて」。核家族化で身の回りに相談できる年長者もなく、不安をかかえる親がやってくるのが一因です。「コンビニのように気軽に来られては困る。患者を教育して、受診を減らそう」と考える医師は多いようです。でも、それが果たして可能なのか、また望ましいのか、議論は分かれます。(添田孝史)

施設を増やせど… 医師負担減らず

東京都練馬区役所の2階に今年6月、「夜間救急こどもクリニック」が開かれた。平日は午後8時から11時まで、土日や祝日は午後6時から10時まで、地域の開業医らが交代で診療している。月300万円の人件費は区が補助する。9月までの4カ月間に1629人の患者が訪れた。このうち入院や詳しい検査が必要で転院した重症者は、5人だった。
夜間の救急患者は、それまで近くの日大練馬光が丘病院に集中していた。年間約1万4000人。医師が過労死しかねない状態だった。病院の負担を減らすことも、クリニック開設の狙いだった。
ところが開設後、光が丘病院の患者が減ったかというと、「予想外ですが、その効果はありませんでした」と同区。「便利に診てもらえるところができて、新たな需要を掘り起こしたのかもしれない」

おそらく開設前から議論はあったのだと思いますが、光が丘病院のよほど近くに開設し、連携をとらないとこのような結果になることは最初から予想されていたと思います。予想外というのも変だなあ、と、思います。

群馬県は、今年春から輪番で、24時間小児科医が待機する病院を決めている。だが当番の病院名は消防や医療機関だけに公開し、市民には知らせていない。「公表して軽症患者が殺到すると、救急車を引き受けるという本来の機能が果たせなくなるおそれがあった」と県の担当者は言う。

「受診減らせ」は… 医者側の都合か
昭和大(東京都品川区)の飯倉洋治教授らが今年、小児科学会の役員149人にアンケートした。「患者の教育をうまくすれば、救急患者が減らせる」と考える人が、約7割を占めることが分かった。
 横浜市で小児科を開業する山本淳さんは、10月に、「小児科のお医者さんからママたちへ」(主婦と生活社)を仲間の医師2人と出版した。診療所で初診の患者さんに配っていたパンフレットをもとに、発熱、おう吐など病気の初期対応をまとめた。「普段の診療の際のアドバイスや、パンフレットなどを通じて、医者への上手なかかり方を知ってもらえば、救急患者は減らせるはずだ」と山本さんはいう。

ここだけが引用されてしまいましたが、僕の言いたいことはむしろ次の「親が求めるものは・・・ 子育て不安解消」のところに書いてある市民グループ代表の方の意見のようなものでした。記者は「先生は患者さんへの情報支援で患者さんが救急患者さんが減ると思いますか?」と、取材のときに聞きました。僕は「すぐには減らせないかもしれない。でも、たとえ減らなくても、患者さんが基礎的な知識をもったうえで受診する救急外来だったら、受診の質があがる。必要でない受診は減るだろうし、朝まで待たない方が良い患者さんは的確に来院されるようになる。実際に夜間救急の現場で、どういうときは急ぐ症状でどういうときは家で様子をみたほうが良いのかを説明することが多いが、すごく満足された後、そうするとそういう話を昼間に聞きたかった、という患者さんも少なくないんですよ。」と、お話ししました。「単に夜間の患者さんを減らすための患者さんへの情報支援」ととられるのはちょっといやだなあと思います。
またこういう記事があると、必ず「夜間にしかかかれないお母さんだっているのだから」という話がでてきます。このへんは実は別問題なのです。今、普通の夜間急病センターは原則として1日分の処方(かかりつけ医に受診するまでのつなぎ)で、あくまでも昼のかかりつけ医までのとりあえずの応急手当になっています。普通の病気は夜間にかかるぐらい重ければ、翌日に保育園に預けられるということはまれですから、やはり仕事を休まなくてはならないのは、前日夜間にかかったからといっても同じことなんです。もちろん将来、病児保育などが充実し、夜間に小児科医にかかって、昼間は病児保育に預け、また経過をみてもらいに夜間にかかるというようなことが普通になればこれは別です。
そのうち夜間に診療時間を意識的にもうけるような小児科ができるとは思います。(ナースがどれだけ集まるかは難しいですが)
そこまで考えて取材にはのぞんでいますが、なかなか数行のコメントでは意は尽くせないものですね。


だが、北九州市立八幡病院の市川光太郎・小児科部長は「親からも信頼され、きちんと患者教育ができる医者ばかりではないだろう」と、教育の実効性に疑問を示す。
同病院は、毎晩3人の小児科勤務医が待機する。軽症の患者から高度な集中治療が必要な患者まで、1カ所で引き受けられるモデル的な医療機関だ。
市川さんは「いつでも、どこでもというコンビニ化は悪くない。そんな救急体制を政策として全国に巡らすことが大切だ。患者を減らそうというのは医者側の都合に過ぎない」と言う。

患者さんへの情報支援をしなければ、いつまでたっても患者さんを「情報の外」におくことになります。悪く言えば、「患者さんは無知であたりまえ」という意識です。患者さんはそこまで馬鹿にされて平気でいるのでしょうか?ただ、市川先生のおっしゃるように、”きちんと患者教育ができる医者ばかりではない”というのは確かにそうかもしれません。夜間急病センターで働いていても、なぜか同じ診療所に通院している人の受診が目立ちます。聞くとまともな説明がほとんどされていない、ただの「お薬自動販売機」になっているのです。でも、この自動販売機を夜間も稼働させればよいではないかというのはあまりに情けない考え方です。
さらに、夜間当番をしている医師たちの気持ちも考えてほしいです。僕らは夜間に来た患者さんの不安をまずほぐし、家庭でどんなことができたか、明日かかりつけ医にどんなふうに接すれば次のときにも役に立つか、薬ではなくできるだけお話しで安心してもらうように努力します。もちろん手間はかかります。「はい、お熱ですね。おのど赤いですね。じゃあお薬だしておきますから、明日お熱が続いたら必ずかかりつけにかかってくださいね。はい、次の人・・・」でよければそのほうがよほど時間も手間もかかりません。でもね、そんな外来をしたら悔しいし、精神的に疲れます。患者さんと心が通い合わないから。でも、「薬の自動販売機」になれというのが時代の要請なら、それも仕方ないのかもしれません。そのうちに市民がそれが間違いであったことに気づくでしょう。でもそのときではもう遅いでしょう。


親が求めるのは… 子育て不安解消

京都市の市民グループ「おふぃすパワーアップ」(代表、丸橋泰子さん)は、子どもの医療機関・相談機関を特集した情報誌を来春出すため、お母さん約300人にお薦めの医療機関などを尋ねるアンケートをした。
口コミで評判のいい小児科開業医や、夜間や休日でも診てくれる病院を知りたい、という希望がとても強かった。
お母さんたちは、「母親の不安が理解できる医師」を求めている。「こんな軽い症状で連れてきて」と言われたり、態度で示されたりすると、ますます子育てに自信を失ってしまうからだ。
丸橋さんはいう。「医者は『大したことないですよ』と言うだけでなく、病状や経過をきちんと説明してほしい。次回の急変時に役立つ患者教育なら歓迎だ。でも、そんなことを教えてくれる医者は少ない」

このコメントは「我が意を得たり」と思いました。それが僕らのクリニックの方針そのものだったからです。多くの親御さんが求めているのが、「病状やこれから予想される経過の説明とその対処法」なのです。
コンビニ救急を拡げればいいと言う医師たちは、小児科の患者さんはどんどん大きくなって卒業していくから、患者教育やったってきりがないと言うそうです。(記者から聞いた話)
何でそんなこと・・・そんなこと理由にしないでくださいよ。親になって子供を小児科に連れて行くときがおそらく普通の人にとって病気(こどものときのことやお産を除けば)と向き合う、医者やナースと接する最初の経験なんです。そこで医療の暖かさ、ひたむきさを、感じ取ってもらい、市民に医療をより身近に感じてもらおうとなぜ思わないのですか?
多くの人は年をとれば病気になります。医療の世話になります。そんなとき、その人の原風景はおそらくはじめて我が子を小児科に連れて行ったときの医師のひとこと、ナースの気配りかもしれません。みなさんにとって幼稚園の思い出、小学校の遠足がなぜか忘れられないように。若い頃接した医師やナースとの思い出は患者さんの一生の思い出になるかもしれないんですよ。


国立公衆衛生院の田中哲郎・母子保健学部長らは昨年、福岡県、東京都や千葉県の保育所の保護者760人に聞き取り調査をした。
子どもが病気のときに医師から受けた病状説明などが理解できなかった経験のある人は、全体の6割にのぼった。
小児科医840人に、病状の説明をして親が理解していないと感じた経験があるかどうか尋ねたら、8割が「ある」と答えた。
田中さんは「子育てに必要な病気や看護の知識を学校で教えないので、知らない人が多い。急病の対応について学校教育も含めて患者教育を充実させるなど、地道な対策が必要だ」という。

そうなんです。医師だけの時間、力では半分の人には理解してもらうのは無理なんです。だからこそ、クリニックのスタッフの力が大切なんです。星川小児クリニックにナースがたくさん在籍しているのも、納得していただけると思います。