イオンクラフトはなぜ浮上するのでしょうか?
このページでは、イオンクラフトに働く3種類の力と、浮上原理について説明します。
イオンクラフトに働く力を理解する前に、一般的なイオンクラフトの構造について確認しましょう。
寸法や形状については様々ありますが、細い導線と幅のあるアルミホイルを電極に用いるという構成は概ね共通しています。
導線とアルミホイルはそれぞれ電源につながっていて、電極間に約20kV以上の電圧を加えると浮上する場合が多いようです。
また、軽量化のために導線やアルミホイルを固定する枠にはバルサという木材やストロー、あるいは紙などを用います。
参考までに、私達が製作したイオンクラフト(動画はこちら)は1.9gでした。
前述のとおり、イオンクラフトには約20kV以上もの高電圧を加えます。
これは、高電圧と電極付近のイオンによって生じる静電気力を推力として利用するためです。
以下では、導線を正の高電圧を加え、アルミホイルはアースしていたものと仮定して、無限に長い断面を考えます。
導線は細く電荷が集中しているためにコロナ放電が発生し、空気中の分子をイオンに変えます。
通電前の空気が電気を帯びていなかったとすると、導線の周りには陽イオンと陰イオンが等量生成されているはずです。
導線は正に帯電しているため、陰イオンはすぐ導線に引き寄せられます。
一方、陽イオンはアルミホイルの方に引き寄せられますが、移動距離が長いためにすぐにアルミホイルにたどり着くことはなさそうです。
したがって、導線周りでは陽イオンが残るために正電荷の密度が非常に高くなります。
このとき、イオンクラフトに働く静電気力はどうなっているでしょうか?
以下の3つが考えられます。
また、アルミホイルに引き寄せられていたイオンは、電気的に中性な空気分子に衝突します。
これにより、イオンは減速し、中性粒子はアルミホイルの方向へ加速します。
このようにイオンと中性粒子との衝突が無数に繰り返されることで、イオンが持つ運動量はすべて中性粒子に移ります。
したがって、イオンはアルミホイルに衝突する以前に中性粒子にその運動量を奪われてしまい静止します。
中性粒子はアルミホイルに引き寄せられることはないので、イオンクラフトが得る上向きの運動量は中性粒子が得た運動量と大きさが等しくなります。
以上より、イオンクラフトが受ける上向きの力は以下の2つの合力であると考えられます。
「イオン風可視化実験」の動画を見ると、イオンクラフトは電線からアルミホイルの方向に向かって空気の流れを作り出していることがわかります。
これは、前節で述べたとおり、静電気力で加速されたイオンが空気分子と衝突することによって流れを作っているためです。
この影響を流体力学的に考えてみましょう。
流れのなかに物体があると、物体は流れの方向に向かって抵抗力を受けます。
流れるプールで逆流するのが大変だったり、強い風にあおられるのはそのためです。
イオンクラフトも形あるものですから、この抵抗を受けることになります。
また、飛行機が翼から飛ぶ力を得るように、流れの中の物体は流れの方向と垂直方向の力も受けます。
これは一般に揚力と呼ばれていますが、一般的なイオンクラフトにおいては、垂直方向に関して対称なので、揚力を考える必要はないでしょう。
例えばアルミホイルを斜めに取り付けるようならば、考慮する必要があります。
まとめると、イオンクラフトに働く力は以下の3力の合力となります。
この合力がイオンクラフトの重力よりも大きければ、浮上します。