医療が崩壊していく(2)  
国が作った看護師不足

最近、看護師不足という言葉をよく耳にします。しかしこれは予想外に急に起こったことなのでしょうか?


07年4月より、看護の質をあげるため、1:7(入院患者7名に対して1名の看護師が実際にその日に出勤している状態)の看護師がいれば、入院の料金が高く設定できるというように保険診療の規則が改正されました。他の医療報酬が減らされる中で、唯一といってもいいアップ分がこの手当なので、病院としては生き残るためには看護師の増員が必要だったのです。
そのため、多くの病院が看護師を集めようと躍起になり、全国的に看護師の争奪戦が起きていることはよく知られています。
戦いに敗れた病院(特に地方)では、患者:看護師の比率をなんとか1:7にするために病棟閉鎖(つまり入院の定員を減らす)をしたり、また大都市に看護師を奪われた地方は病院自体が立ちゆかなくなってきています。また、訪問看護ステーション勤務の看護師も歯が抜けたように辞めはじめ、在宅医療もできなくなってきています。
また、何とか看護師を確保した病院も安泰ではありません。1:7を守るため(病院の収入を何とか確保するため)、有給休暇はもちろん、病欠で欠勤の看護師の穴も絶対に埋めなくてはならないため、多少熱があるくらいでは看護師は病気でも休めず、休日出勤も常態化してきているということです。医師の労働基準法無視はもうどうにもなりませんが、看護師も同じことになりそうです。
ここで問題にしたいのは、「このようなことが予想できなかった」厚生労働省の見込みの甘さです。
通常、民間企業レベルであれば、何かのプロジェクトを全国的に展開するときは、例えば市場調査でもいいし、テストマーケットでもいいし、綿密な調査が行われ、企業のリスクを減らす努力をするはずです。
国だってそのくらいはした・・・のでしょうか?
私にはどうもそうは思えないのです。

話題が急にかわりますが、例えば小児科医にとって身近な「麻しん・風しん混合ワクチン」導入にまつわる話。
2006年4月から導入されたのですが、2005年に発表されたときは、「2006年3月までに麻しん単独ワクチンを接種した児は5歳になったときの麻しん風しん混合ワクチンを受ける権利はなく、2006年4月以降に麻しん風しん混合ワクチンを接種した児は5歳になったときに無料で麻しん風しん混合ワクチンをもう一度受けることができる」とされていました。誰がみても、「それじゃあ1歳になってすぐに麻しんワクチンをするよりも、2006年4月まで待って接種したほうが得じゃない?もし麻しんがそんなに流行していないというなら待とうかしら・・・」と考える人たちがたくさん出てくるのは目に見えているわけです。せっかく1歳になったらすぐに麻しんのワクチンをしてくれる市民が増えたからやっと麻しんの流行が鎮静化してきたところなのに・・・これは大変なことです。ところがこの計画を作成した厚生労働省は「そんなふうに接種を控える動きが出てくるとは考えてもいなかった」というのです。つまり普通の現場感覚、お子さんをお持ちのお父さんお母さんの感覚がわからないのです。
その他、研修医制度を変更したために、医師が病院からいなくなり、大学に戻るという動きがでてくる(そうせざるをえない)ということも、どうも厚生労働省のお役人にとっては予想外だったようです。

このようなことから、厚生労働省というところは、「ごく普通の予想すらできない」省なのだなと思っていました。そこに今回の看護師不足・・・そんなことはじめからわかっていたんじゃない?と言いたいところですが、多分わかっていなかったのだろうなと妙に納得してしまいます。厚生労働省にしてみれば、意外だったのでしょう。
でも、今回のことはただの「わり算」なのです。
全国の病床数と、看護師数(実働の)がわかれば小学校高学年の子でもできる計算なのです。

看護師の資格がありながら働いていない人がいるので、その人を掘り起こせばいいではないか・・・と、今更のように言います。
それは、ペーパードライバーにいきなり運転しろというようなもの。
本人だって、そんな心配なこと・・・やりたくないです。
もちろん、看護師の仕事に余裕をもたせるということは必要です。
しかし、看護師を養成する、家庭にいる看護師に復帰してもらいやすい環境を整えるという施策なしにいきなりルールだけをかえたらどうなるか・・・
でも、アメリカは1:5ではないか?・・・それはね、国民ひとりあたりの医療費が全然違うのです。
アメリカの半額でやっている医療でどのくらいのことができるかという現実的なセンスが必要なのです。

現場の空気を知らなさすぎる役人の考えていることに振り回される病院。
医療を崩壊させているのは誰?、医療が崩壊していく(1)の、福島県警は、かなり暴力的ですが、厚生労働省だって負けてはいません。